静かに崩れる構造体|針状結晶の化学的視点から見る床下の劣化
2025/10/11
🧩導入 ― 「静かな崩壊」はどこで始まるのか
住宅の床下は、普段目にすることがない場所です。
しかし、その“見えない部分”こそ、建物の寿命を左右します。
築30年を超える住宅の点検で、コンクリート束石の下が砂のように崩れ、
束柱が10本以上浮いていた現場がありました。
これは単なる経年劣化ではなく、針状結晶(しんじょうけっしょう)と呼ばれる
化学反応による崩壊現象でした。
コンクリートは強い──
そう思われがちですが、湿気と酸性土壌、そして時間の前では、
その強度は確実に失われていきます。
🧪1. 針状結晶とは何か ― コンクリートの内部で進む反応
針状結晶は、主にコンクリート中の水酸化カルシウム(Ca(OH)₂)が、
外部の酸性水や硫酸塩、塩化物イオンなどと反応することで生じる無機の結晶体です。
反応の過程で「エトリンガイト」や「タウマサイト」といった膨張性の化合物が形成され、
内部で針のように成長します。
このとき、コンクリートは内部から微細なクラックを起こし、
やがて粉末状に崩壊していきます。
外観がきれいでも、内部はスカスカ──
それが針状結晶の最も恐ろしい特徴です。
⚗️ 2.5 針状結晶は生き物ではない、しかし“呼吸する”
針状結晶は、カビでも菌でもありません。
これは完全に化学反応で生まれる無機の結晶です。
湿気や酸性水、硫酸塩がコンクリート内部の成分と反応し、
「エトリンガイト」「タウマサイト」といった物質を形成します。
DNAも代謝もなく、繁殖するわけでもない──
それでも、湿気を吸っては溶け、乾くと再び結晶化する。
その様子はまるで、呼吸をしている無機の生物のようです。
だからプレモは、これを“無機のカビ”と呼びます。
見た目が白く、ふわっとしていて、
指で触れると綿あめのように崩れる。
しかし内部では、建物の骨格を静かに蝕んでいるのです。
築30年以上の床下で見つかる「針状結晶」とカビの関係|川口市の床下防カビ工事
※本コラムは、プレモHPブログ「築30年以上の床下で見つかる『針状結晶』とカビの関係|川口市の床下防カビ工事」の続編として、第2.5章に位置づけています。
🔬 3. 湿気と土壌が作り出す“化学反応の温床”
床下は、気温差と水分の滞留が起こりやすい場所です。
とくに粘土質や酸性土壌では、地下水中に硫酸塩が含まれることがあり、
これが針状結晶を促進する“触媒”となります。
また、床下が常時高湿度(80%以上)に保たれている住宅では、
酸性水分がコンクリートに浸透し、
化学反応が24時間止まらない状態になります。
この環境では、白い析出物が現れ、
やがて内部構造の膨張・破砕が進み、
基礎そのものの耐力が失われていきます。
⚙️ 4. 技術的な見方 ― 針状結晶と構造劣化の関係
針状結晶は見た目に反して、内部破壊力が極めて高い現象です。
1️⃣ 化学的膨張圧
針状結晶は成長とともに体積を増し、微細な空隙を押し広げる。
2️⃣ 中性化と再結晶化
酸性水によってアルカリ分が溶出し、中性化が進行。
同時に硫酸塩結晶が再形成され、繰り返し内部を破壊。
3️⃣ 支持力の喪失
粉状化が進むと、束石・基礎・地盤の支持バランスが崩れ、
束柱や大引きが浮き上がる現象が発生する。
結果的に、床下全体が“見えない傾斜”を持ち、
建具の狂い・床鳴り・壁紙の隙間などとして表面化します。
🔎 4.5 現場で分かった「針状結晶の正体」
外周基礎に付着していた針状結晶を削ってみましたが、
表面が硬く、ヘラやブラシではきれいに剥がれません。
まるで骨格のように基礎コンクリートと一体化していました。
試しに防カビ剤を軽く噴霧したところ、
白い層がふやけてゆっくり溶け始めました。
ただし、これは防カビ剤の薬効ではなく、水分による再溶解反応と思われます。
その様子はまるで、コンクリートに巣食った綿あめのようでした。
湿気を吸っては再結晶し、乾くと固まる──
この呼吸のような現象こそ、針状結晶の本質です。
この体験から、私は確信しました。
針状結晶とは、コンクリートに巣食う“無機のカビ”であると。
築30年以上の床下で見つかる「針状結晶」とカビの関係|川口市の床下防カビ工事
※本コラムは、プレモHPブログ「築30年以上の床下で見つかる『針状結晶』とカビの関係|川口市の床下防カビ工事」の続編として、第4.5章に位置づけています。
🧱 5. 現場で見た“構造崩壊の連鎖”
束柱が浮き、ピンコロ(束石)が砂のように崩れ、
内部骨材が露出するまで劣化が進行していました。
それでもなお、構造は“静かに”見えてしまう──
これが、針状結晶の本当の怖さです。
📷写真は、床下木材に大量発生したカビです。
針状結晶によるコンクリートの劣化が進行した結果、床下の湿度が上昇し、木部にまで真菌が繁殖。
一般的に「防腐処理されていればカビは生えない」と思われがちですが、実際の現場では、防腐剤処理木材であっても普通にカビます。
加圧注入処理でも、表面塗布でも同じことです。
これは、防腐・防蟻剤が木材内部の菌分解(腐朽菌)や虫害を抑えるための薬剤であり、カビ(真菌)にはほとんど効果がないためです。
特に、シロアリ駆除業者が使用している「防腐防カビ剤」は、カビの根(菌糸)まで殺す力を持たず、
表面を一時的に覆うだけに留まります。
そもそも、彼らの施工にはカビ取りや殺菌消毒の工程が存在しません。
カビを除去せず、その上から防腐防カビ剤を塗布してしまうため、見た目はきれいでも、根は生き残り、すぐに再発します。
結局のところ、カビが発生しない環境=湿気を抑えることと、根から除去すること。
これを同時に実現できるのが、防カビ工事の本質です。
🪵 6. コンクリートの崩壊と木部劣化は同時に起きる
コンクリートが粉状化すると、床下の湿度は急上昇します。
この高湿度環境が、木材にとっては腐朽菌とカビの温床となります。
つまり、無機質(コンクリート)と有機質(木材)の崩壊は同時進行。
プレモでは、このような環境での安易な防カビ施工は行いません。
木材が内部から傷んでいれば、交換・補強が優先です。
防カビ工事は、「木部が生きている状態を守る」ために行うものなのです。
💡 7. 防カビ技術の立ち位置 ― 化学反応を止めることはできないが…
針状結晶そのものを止めることは、現代の技術でも困難です。
しかし、湿気を制御し、木材を守ることはできる。
・通気確保と調湿施工(リスク高い)
➊床下換気扇:故障リスクあり、壁下の基礎により床下の隅々の空気を動かすことがしにくい。
❷防湿シート:湿気を放つ土間に敷くことで湿気を減少させるが、土間にカビの花が咲くことにもなる。
❸調湿材:常時多湿状態で調湿材はその質と量が必要になる上、床下が深くないとできない。費用高い。
・定期点検による早期発見
・カビ取り・殺菌消毒・防カビ施工
これらを組み合わせることで、「構造崩壊の進行速度」を大幅に遅らせることが可能です。
カビ対策は“見えない構造を守る技術”──
それが、私たちがたどり着いた答えです。
🔚 結論 ― 無機のカビが示す静かな警告
針状結晶は、ある日突然に現れるものではありません。
湿気・酸性・経年という3つの条件が重なったとき、
静かに、しかし確実に進行していきます。
コンクリートが劣化しても、木材が生きていれば建物は呼吸を続ける。
その“呼吸”を止めないことが、プレモの使命です。
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